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2040年カーインテリアの旅〈後編〉 December 10,2022

未知なるインテリアの旅へ
2040年を想定したそのコンセプトカー。フューチャリスティックなデザインを纏ったこのコンセプトカーは、未来の内装空間を描いた、創造力に満ちた3人乗りのeモビリティです。さて前編では、“新次元の快適”というキーコンセプトのもと、『動くフロア』というアイデアを思いついた開発担当の中塚賢一(なかつか・けんいち)。フラットな床面が、パッセンジャーシートへとトランスフォームする斬新なアイデアをいかに具体化していくのか。その知られざる開発ヒストリーを紐解きます。それでは、未知なるインテリアの世界へ行ってらっしゃい。
<前編はこちら>
段ボールで出来たモックアップ
動くフロアを中心に、コンセプトカー開発はより緻密なパッケージングへと進行していきました。現在の量産車の車両寸法を踏まえ、乗り降りするドアの寸法やヒンジといった細かな部分を盛り込んで、初期のデザイン案をもとにした簡易モックアップが完成しました。驚くべきことに、このモックアップは段ボールでできており、社内では“リッチな段ボールハウス”と噂されるようになります。その訳は、見た目こそ掘っ立て小屋のようだったからと言われていますが、車内の居住性はすでにその時点で優れており、開発メンバーのみならず、新入社員から、役員にまでに搭乗してもらい、多くのフィードバックを得たといいます。
この簡易モックアップのおかげで、1/1での妥当性が確認できたことは大きく、少子化であろう未来を前提に、未来のミニバンを想定した3人乗りに決定。居住性を最優先に、フロントからリアにかけてなだらかに傾斜する独特なボディーシルエットに定まっていきます。この検討により最終的に当初の予定よりも全長が1000mm 短くなるなど、多くの発見に繋がったといいます。
発泡スチロールのモックアップと開発メンバーたち
簡易モックアップの完成を経て、本格的なモックアップ制作がはじまりました。この過程からはコンセプトカーのモックアップ制作を専門とする社外メーカーとの連携が必須です。未来カーに求められる仕様に沿った緻密な設計が始まります。まず社内のデザイン部が1/4サイズのクレイモデルを制作し、社外のチームによってCAD図面が出来上がります。この時点で、搭載アイテムや車体構造を再現するべく、発泡スチロールでできた1/1サイズのモックアップも完成しました。全長はコンパクトカーのサイズでありながら、車内は、見た目より広く、そのギャップが新次元を予感させるものでした。
難易度高い「動くフロア」の実現
一筋縄ではいかなかった搭載アイテムがありました。それはメインアイテムの「動くフロア」です。
「そもそも20年先の未来のクルマを、現代の技術で作らなくてはならないのです。当然ながら搭載技術は市販はおろか存在さえしているはずはなく、一から開発しなくてはなりません」
つまり「動くフロア」も同じく、まったくゼロから開発する必要がありました。まず、フラットな状態からシートの状態まで変型するには、およそ130%の伸縮性が求められ、表皮の編み込みの改良が繰り返されました。シートのクッション素材には、東京大学のベンチャー企業が開発した特殊なウレタン素材を採用し、今までにない宙に浮いたような座り心地が実現できたと言います。新次元の快適というコンセプトに確実に近くなってきたことを実感させてくれました。

旅の終わりは新たな旅のはじまり
プロジェクト開始から4年の歳月を経て、ようやく未来カーは完成を迎えます。最後の工程となったプロジェクションマッピング映像とコンセプトカーの同期では、3台のプロジェクターのうち、1台から投影した映像にほんの僅かなズレが生じ、コンマ1秒単位の最終調整が余儀なくされました。しかし、すべてがピッタリとハマった瞬間はこれまで経験したことのない達成感を感じたそうです。/4サイズのクレイモデルを制作し、社外のチームによってCAD図面が出来上がります。この時点で、搭載アイテムや車体構造を再現するべく、発泡スチロールでできた1/1サイズのモックアップも完成しました。全長はコンパクトカーのサイズでありながら、車内は、見た目より広く、そのギャップが新次元を予感させるものでした。
未来カーが納得のいく精度で完成できたのは、社内でも柔軟な発想を持つメンバーが開発に関わってくれたことが大きいといいます。モチベーションの高いメンバーが少数精鋭として集まり、それぞれのメンバーがアウトプットするアイデアを最大限に尊重し、その集大成として生まれた未来カー。まさに林テレンプが目指すべき未来がこの1台に詰まっているといえるでしょう。
ここで改めて、未来カーをよく見てみると、シートベルトが見当たらないことに気づきます。これはもちろん、コンセプトカーだからともいえますが、20年後の未来では、自動運転を想定した事故のない世界が待っているとも読み解くことができます。そんな未来カーの展示を実際に体験してみると、2040年が待ち遠しく思えてくるのです。
【プロフィール】
中塚 賢一(なかつか・けんいち)
2001年、林テレンプへ中途入社。生産技術からアメリカでの海外勤務を経て、本社にて設計、開発、現在に至る。趣味は魚釣りとパン作り。